ジブリに学ぶコード進行/久石譲の作曲法

森を歩くもののけ

なぜジブリは感動すのか、なぜジブリは何度も見返してしまうのか、なんて事を思ったことはありませんか。
もちろんアニメ映画として作品のクオリティが高いというのは言うまでもありませんが、挿入曲もその作品クオリティに一役買っています。

ジブリ音楽といえば、やはり長野県の生んだ天才、久石譲さんを思い浮かべるのではないでしょうか。
ジブリ映画だけではなく、数々の素晴らしい曲を生み出してきました。


*ビートたけしさん主演映画『菊次郎の夏』メインテーマ「Summer」

ジブリの名曲

ジブリといえば、各シーンのバックで流れる歌のないインストの楽曲の中にも名曲がたくさんあります。
そんな隠れようにも隠れきれないインストの名曲や、久石譲さんの作曲された楽曲も含め、ジブリ音楽のコード進行から見える側面を探っていこうと思います。

「ナウシカ・レクイエム」風の谷のナウシカ


作曲:久石譲

まず1曲目は『風の谷のナウシカ』より、「ナウシカ・レクイエム」です。
多くの方は「ラン、ラーララ、ラン ラン ラン♪」の、少女が口ずさむメロディで覚えているのではないでしょうか。

壮大な前半部分と、童謡感が感じられる後半部分は、AmキーからDmキーへとガラッと転調します。
クラシック音楽が詳しい方は、前半部分を聴いてヘンデルの「サラマンド」を思い浮かべるかもしれません。

そんなクラシカルな前半部分のメインコード進行はこちらです。

|Am  |Em/G |C    |G    |
Am調のとても暗い雰囲気を漂わせながら進行していきます。
ダイアトニックコードから見るとこうなります。
|Ⅰm  |Ⅴm/♭Ⅶ|♭Ⅲ  |♭Ⅶ  |
ベース音は<ラ→ソ→ド→ソ>という進行になり、ラから1音となりのonベースのソに進行し、ソがドミナントとなりドに進行してから、ドから5度先のソに向かって進行します。

・Amダイアトニックコード

Ⅰm7 Am7 Tm
Ⅱm7♭5 Bm7♭5 SDmⓢ
♭ⅢM7 CM7 Tmⓢ
Ⅳm7 Dm7 SDm
Ⅴm7 Em7 Dm
♭ⅥM7 FM7 SDmⓢ
♭Ⅶ7 G7 SDmⓢ

*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)

一方皆さんが馴染み深い、童謡のような雰囲気を漂わせている後半部分のメインコード進行はこちらです。

|Dm  A7/E|Dm/F A7/E|Dm  A7/E|B♭-C-Dm |
A7がDmダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードですが、こちらはDハーモニックマイナーのⅤ7のドミナントコードのA7です。
後半部分では、Dm→A7という進行に加え、ベース音がonベースとなりクリシェ(単音のライン)のような滑らかベースラインになっています。
最後はB♭→C→Dmと進行し、ユーロビート進行のようにセクションを終えています。

*Dmダイアトニックコード

Ⅰm7 Dm7 Tm
Ⅱm7♭5 Em7♭5 SDmⓢ
♭ⅢM7 FM7 Tmⓢ
Ⅳm7 Gm7 SDm
Ⅴm7 Am7 Dm
♭ⅥM7 B♭M7 SDmⓢ
♭Ⅶ7 C7 SDmⓢ

*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)

クリシェが輝く名曲12選J-POPヒットソング
今回ご紹介するのは、「クリシェ」が映えるヒットソングをご紹介します。 クリシェとは音楽理論用語で、コード進行の中に単音のラインを作ることです。 1つのコードで作る場合や、コード進行の中で上昇する場合、または下降する場合と、クリシェ自体のパタ...

「君をのせて」天空の城ラピュタ

作詞:宮崎駿 作曲:久石譲

『天空の城ラピュタ』の代表曲、「君をのせて」です。
ジブリ飯の原点と言われる「目玉焼きのせ食パン」の生まれた作品です。

作曲は久石譲さんで、作詞はなんと監督の宮崎駿さん自ら担当されています。
「君をのせて」ではE♭mキーの進行で暗く曲が進んでいきます。

*E♭mダイアトニックコード

Ⅰm7 E♭m7 Tm
Ⅱm7♭5 Fm7♭5 SDmⓢ
♭ⅢM7 G♭M7 Tmⓢ
Ⅳm7 A♭m7 SDm
Ⅴm7 B♭m7 Dm
♭ⅥM7 BM7 SDmⓢ
♭Ⅶ7 D♭7 SDmⓢ

*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)

それではサビのコード進行を見てみましょう。

|E♭m |BM7 |D♭  |G♭ B♭7|
|E♭m |BM7 |D♭  |E♭m |

|Ⅰm |♭ⅥM7 |♭Ⅶ |♭Ⅲ Ⅴ7|
|Ⅰm |♭ⅥM7 |♭Ⅶ |Ⅰm  |

マイナーキー進行の中でもよくある進行パターンです。
ダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードのB♭7コードは、E♭ハーモニックマイナーのⅤ7コードです。
実はこちらの進行は現代のJ-POPを支えているコード進行の1つでもあります。
音楽プロデューサーの小室哲哉さんが多用し、「小室進行」とも呼ばれています。
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌「残酷な天使のテーゼ」や、アイドルグループAKB48の「フライングゲット」などでも使用されています。
https://guitarist-muscle.com/komuro/

「となりのトトロ」となりのトトロ

作詞:宮崎駿 作曲:久石譲

続いてはどの世代からも愛され続けるトトロのテーマソング「となりのトトロ」です。
皆さんの耳に馴染み深い、サビ部分のコード進行を見てみましょう。

|F    |C7   |    D♭dim|Dm  |
|B♭m |Am7 Dm7  |Gm7 |C7 |
こちらがサビ出だしからの8小節になります。
キーはFメジャーです。
*Fメジャーダイアトニックコード
ⅠM7 FM7 T
Ⅱm7 Gm7 SDⓢ
Ⅲm7 Am7 Tⓢ
ⅣM7 B♭M7 SD
Ⅴ7 C7 D
Ⅵm7 Dm7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Em7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

ここではダイアトニックコードにない、ノンダイアトニックコードが2つ出てきます。
D♭dimコードと、B♭mコードです。

dimディミニッシュ)コードは、とても暗く不安を強く感じる響きでもあり、バラード調の悲し気な曲に出てくるコードと思われるかもしれませんが、明るいポップな曲でも、コードとコードを繋ぐ通過コードとして、コード進行の中で1拍、または2拍だけ登場するというのはよくあるパターンです。

ここではC7コードとDmコードを繋ぐコードとしての使用です。
*コードトーン(コード構成音)

C7 ド ミ ソ シ♭
D♭dim レ♭ ミ ソ シ♭

C7コードとD♭dimコードは、ルート音以外は同じです。

明るくポップな曲の例といたしまして、星野源さんの大ヒット曲「恋」でも、dimコードが多用に使用されています。

次にB♭mコードですが、こちらはFメジャーと同主調のFmダイアトニックコードから借用されたⅣm(4度マイナー)コードのサブドミナントマイナーコードです。
サブドミナントマイナーコードはJ-POPヒットソングでも多用に使用されている、万能なコードになります。

【サブドミナントマイナー】名曲コード進行9選
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「カントリー・ロード」耳をすませば

作詞作曲:B.Danoff, T.Nivert & J.Denever
日本語歌詞:鈴木麻実子

続いてはジブリ映画の青春の名作『耳をすませば』テーマソング、「カントリーロード」です。
「カントリーロード」の原曲は、アメリカのシンガーソングライターのジョン・デンバーさんが歌う「Country Road」です。


それでは、「カントリーロード」のサビのコード進行を見てみましょう。

|FM7    |B♭6  B♭/C-D♭m7♭5|
|Dm     |E♭M7    F7|

|B♭M7  |E♭   |
|B♭  B♭/C|F   Fsus4-F|

キーはFメジャーになります。
*Fメジャーダイアトニックコード
ⅠM7 FM7 T
Ⅱm7 Gm7 SDⓢ
Ⅲm7 Am7 Tⓢ
ⅣM7 B♭M7 SD
Ⅴ7 C7 D
Ⅵm7 Dm7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Em7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

「カントリーロード」のサビにおいても、ダイアトニックコードにはないノンダイアトニックコードの、D♭m7♭5、E♭M7、F7コードが出てきます。

C#m7♭5コードは、<B♭6→B♭/C→D♭m7♭5→Dm>という進行のクリシェを補う通過コードです。ベースラインは<シ♭→ド→レ♭→レ>、という上昇のクリシェ進行です。

E♭M7コードは、同主調のFmダイアトニックコードから借用された、♭Ⅶコードのサブドミナントマイナーコードです。

F7(ファ、ラ、ド、ミ♭)コードは、次のB♭M7コードへ進行するため、一時的にB♭ダイアトニックコードから借用されたⅤ7コードのドミナントコードであり、セカンダリードミナント進行をしています。

ちなみに、原曲の「Country Road」とはコード進行がアレンジされています。

*日本語歌詞サビ部分コード進行
|ⅠM7    |Ⅳ6  Ⅳ/Ⅴ-♭Ⅵm7♭5|
|Ⅵm     |♭ⅦM7    Ⅰ7|

|ⅣM7  |♭Ⅶ   |
|Ⅳ  Ⅳ/Ⅴ|Ⅰ   Ⅰsus4-Ⅰ|

*原曲
|Ⅰ    |Ⅴ    |Ⅵm  |Ⅳ    |

|Ⅰ    |Ⅴ    |Ⅳ    |Ⅰ    |

・日本語歌詞、原曲どちらもCメジャーキーに移調した場合
*日本語歌詞
|CM7    |F6  F/G-♭Am7♭5|
|Am     |B♭M7    C7|

|FM7  |B♭   |
|F  F/G|C   Csus4-C|

*原曲
|C    |G    |Am  |F    |

|C    |G    |F    |C    |

どちらもキーCメジャーに移調した場合を弾き比べてもらえるとわかりやすいと思いますが、原曲のほうがコード進行の動きが大きいため、感情的に感じられると思います。
原曲のサビ出だしの4小節のコード進行は、<1-5-6-4>進行となり、感動コード進行と呼ばれており、世界中で愛されるコード進行のカノンコード進行と近いコード進行です。
一方、日本語歌詞のコード進行ほうは、クリシェの動きや、サブドミナントマイナーコードのアレンジがされ、いい意味で浮遊感があり、切なく透明感がある曲調だと感じられます。

「もののけ姫」もののけ姫

作詞:宮崎駿 作曲:久石譲

続いて、米良美一(めら よしかず)さん歌う「もののけ姫」です。
米良美一さんは先天性骨形成不全症を持ち生まれますが、難病を吹き飛ばすほどの声域、声量をお持ちのカウンターテナー歌手です。「もののけ姫」にてデビュー後、大ブレイクしました。

それでは、「もののけ姫」のAメロ、Bメロ、サビのコード進行を見てみましょう。

*イントロ
|N.C  |      |      |      |

|EM7(#11)|F#M7(#11)|
|Gsus4|      |

*Aメロ
|Cm    |B♭   |
|A♭M7  |Gm7  |

|Fm7   |B♭  E♭|
|D♭M7  |Dm7   G7  |

*Bメロ
|Cm    |B♭    |
|A♭M7  |Gm7  |

|Fm7   |B♭  E♭ |
|Fm7   B♭ |E♭   B♭/D|

*サビ
|Cm    |Gm7  |
|Fm7   E♭M7 |Gm7   |

|Cm   B♭6 |A♭M7  Gm7 |
|2/4(四分の二拍子)|

|Fm7   Gm7 |A♭M7   |
|Fm7   Gm7 |Csus4 |C    |

「もののけ姫」は壮大な世界観を持つイントロから始まり、Cmを基調とした暗く悲し気な雰囲気で進行していきます。
曲は4/4(四分の四拍子)の進行ですが、途中に変拍子として2/4が入っています。

*Cmダイアトニックコード

Ⅰm7 Cm7 Tm
Ⅱm7♭5 Dm7♭5 SDmⓢ
♭ⅢM7 E♭M7 Tmⓢ
Ⅳm7 Fm7 SDm
Ⅴm7 Gm7 Dm
♭ⅥM7 A♭M7 SDmⓢ
♭Ⅶ7 B♭7 SDmⓢ

*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)

まずAメロの最後の2小節では<D♭M7→Dm7→G7>、というダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードの進行です。

Dm7→G7というコード進行は、Cmと同主調のCメジャーダイアトニックコードから借用された、Ⅱm7コードとⅤ7コードです。

つまり同主調の借用コードで、終止形のⅡ-Ⅴ(ツーファイブ)進行をしています。
またはCメロディックマイナーのⅡm7、Ⅴ7コードとしてⅡ-Ⅴ進行をしているとも解釈できます。

*終止形(ドミナントモーション)
|Ⅱm  Ⅴ |Ⅰ      |

:例
|Dm  G |C      |
(解決へのコード進行)

終止形では、コードの持つ響きが<少し不安→不安→安定>と進み、すっきり終わったような感じがします。

次にD♭M7コードですが、D♭M7コードの前後のコードは、E♭コードとDm7コードです。
D♭M7コードのコードトーン(コード構成音)は<レ♭、ファ、ラ♭、ド>となり、E♭コードから、Dm7コードを初めとするⅡ-Ⅴ進行への、とても哀愁ある繋ぎのコードとして機能しています。

楽譜を見てもらうとわかる通り、D♭M7コードの、D♭(レ♭)だけを取り除くと、Fmコード(ファ、ラ♭、ド)として成り立ちます。
ここでのD♭M7コードは、Fm/D♭コードとしても解釈できるでしょう。

次にサビ部分での5小節目からの進行は、|Cm   B♭6 |A♭M7  Gm7 |となっており、ベース音は<ド→シ♭→ラ♭→ソ>とクリシェの動きをしています。

ちなみにB♭6コードのコードトーンは<シ♭、レ、ファ、ソ>となり、Gmコード(ソ、シ♭、レ)の短3度(m3rd)の音のシ♭がベース音となった、Gm/B♭コードとしても解釈できます。

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サビでの最後2小節の進行は|Fm7   Gm7 |Csus4 |C    |という進行です。
マイナー調の曲の終わりにⅠsus4コードを取り入れるのは、B’zの「今夜月の見える丘に」など、J-POPでもよく使用されています。

マイナー調の曲で、最後のコードに主音のマイナーコードではなく、sus4コードを持ってくることで、暗く悲し気な曲調から、少し希望を持てたかのような、明るさと切なさを兼ね揃えた終わりに変化します。

「いつも何度でも」千と千尋の神隠し

作詞:覚和歌子(かく わかこ) 作曲:木村弓

続いて日本歴代興行収入第1位の『千と千尋の神隠し』主題歌、「いつも何度でも」です。
ジブリを代表する、3/4(四分の三拍子)の楽曲でもあるでしょう。

作曲と歌を担当した木村弓さんは、ジブリ映画『ハウルの動く城』主題歌、「世界の約束」を作曲されています。
ちなみに木村弓さんが弾き語りに使用されている楽器は、ハープ(竪琴)という楽器です。
それでは「いつも何度でも」の1番のコード進行を見てみましょう。

3/4(四分の三拍子)

*イントロ
|F    |      |      |      |

*Aメロ
|F     |C     |Dm  |Am  |
|B♭  |F/A  |Gm  |C7   |

*Bメロ
|F     |C     |Dm  |Am  |
|B♭  |F/A  |Gm  C7|F    |
|F     |

*サビ
|F     |C     |Dm  |Am  |
|Dm  |B♭  |Gm  |C7   |

|F     |C     |Dm  |Am  |
|B♭  |F/A  |Gm/B♭ C7|
|F     |       |       |

「いつも何度でも」のキーはFメジャーになります。
曲中に出てくるコードは全てダイアトニックコード内のものになります。
*Fメジャーダイアトニックコード
ⅠM7 FM7 T
Ⅱm7 Gm7 SDⓢ
Ⅲm7 Am7 Tⓢ
ⅣM7 B♭M7 SD
Ⅴ7 C7 D
Ⅵm7 Dm7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Em7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

まずはAメロとBメロのコード進行ですが、譜割り以外はコード進行はほとんど同じです。
初めの4小節が|F     |C     |Dm  |Am  |という進行で、ダイアトニックコードのディグリーネーム(ローマ数字)で考えると、<Ⅰ-Ⅴ-Ⅵm-Ⅲm(1-5-6-3)>となり、次が|B♭  |F/A  |Gm  |C7   |という進行で、<Ⅳ-Ⅰ/Ⅲ-Ⅱm-Ⅴ7(4-1/3-2-5)>という進行です。

実はこの進行は世界中で愛される進行、カノンコード進行が元となっております。
カノンコード進行から変化した点は、最後から2小節目のコードがⅡmコードとなっており、Ⅱ-Ⅴ進行と変化しています。
カノンコード進行の最後の2小節をⅡ-Ⅴ進行へ変化させるのはよくあるパターンです。

カノンコード進行
|Ⅰ    |Ⅴ    |Ⅵm |Ⅲm |
|Ⅳ    |Ⅰ    |Ⅳ    |Ⅴ    |

例:Cメジャーキーの場合
|C    |G    |Am |Em |
|F    |C    |F    |G    |

続いてサビ前半部分の8小節では、後半4小節に変化があり、|Dm  |B♭  |Gm  |C7   |という進行です。
<Ⅵm-Ⅳ-Ⅱm-Ⅴ7>となり、コードの響きは<安定→少し不安→少し不安→不安>という流れで、カノンコード進行から変化を持たせ、もう一回流れが来ることを予感させる進行となっています。
サビ後半部分での5小節目からは|B♭  |F/A  |Gm/B♭ C7|という進行になり、カノンコード進行に加え、ベースラインが<シ♭→ラ→シ♭→ド>という滑らかなラインを作っています。

「風になる」猫の恩返し


作詞作曲:つじあやの

続いては、『猫の恩返し』主題歌、つじあやのさんによる「風になる」です。
とても爽やかで、軽快なポップな1曲です。

Aメロ、Bメロ、サビのコード進行を見てみましょう。

*Aメロ
|C    |Am |F    |G    |
|Em7 |Am |F    |G    |

|C    |Am |F    |G    |
|Em7 |Am |F  G |C    |

*Bメロ
|F    |Fm |C/E |Am Am/G|
|D/F# |      |G  Am  |A#dim G/B|

*サビ
|C    |G/B |Am |Em/G |
|F    |C/E |D/F#|G    |

|C    |G/B |Am |Em/G |
|F    |C/E |Dm7 Dm7/G|

コード進行は王道ながら、所々にスパイスがかかっています。
キーはCメジャーになります。
*Cメジャーダイアトニックコード

ⅠM7 CM7 T
Ⅱm7 Dm7 SDⓢ
Ⅲm7 Em7 Tⓢ
ⅣM7 FM7 SD
Ⅴ7 G7 D
Ⅵm7 Am7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Bm7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

まずはAメロのコード進行では|C    |Am |F    |G    |という進行と、もう1つ|Em7 |Am |F    |G    |という2つのパターンがあります。

出だしのコードがCコードと、Em7コードとで少し違いますが、コードの機能面から見ると、どちらの進行も<安定→安定→少し不安→不安>という流れの進行です。

この<安定→安定→少し不安→不安>というコード進行は、ユーロビート進行にも見られる、安定と、少し不安と、不安が、2:1:1の割合で組み込まれている進行です。
やはりこの進行ではとても勢いを感じ、「風になる」の軽快さを引き立てている進行でしょう。

Bメロでの初めの4小節では|F    |Fm |C/E |Am Am/G|という進行で、ダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードのFmコードが出てきます。

こちらのFmコードは、同主調のCmダイアトニックコードのⅣmコードからの借用コードで、万能コードのサブドミナントマイナーコードです。
実はBメロでの出だしで<Ⅳ→Ⅳm>という進行は、J-POPだけではなく洋楽などでも多用に使用されています。(Oasisの「Don’t Look Back In Anger」など)

そしてBメロの5小節目から|D/F# |      |G  Am  |A#dim G/B|という進行で、ベースラインは<ファ#→ソ→ラ→ラ#→シ>というふうに上昇のラインを作り、クリシェの動きをしています。

D/F#コードは、次のGコードへ進行するための、より不安感を持たせたドミナントコードです。

そしてAmコードとG/Bコードを繋ぐA#dimコードはサビへ向かう期待感を煽りながらも、クリシェのラインを引き立たせる役割もしています。
A#dimコードのコードトーンは<ラ#、ド#、ミ、ソ>です。

そしてサビの1パターン目が、|C    |G/B |Am |Em/G |F    |C/E |D/F#|G    |という進行で、ディグリーネームでは<Ⅰ→Ⅴ/Ⅶ→Ⅲ/Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ/Ⅲ→Ⅱ/#Ⅳ→Ⅴ>です。

こちらは王道のコード進行、カノンコード進行にクリシェの動きを加え、最後の2小節ではノンダイアトニックコードのD/F#コードからGコードへ進行し、もう一度サビへの進行に促しています。
2パターン目の後半3小節では|F    |C/E |Dm7 Dm7/G|という進行で、1パターン目よりも少し落ち着きながら終わりに向かっています。

「世界の約束」ハウルの動く城

作詞:谷川俊太郎 作曲:木村弓

続いて『ハウルの動く城』主題歌、「世界の約束」です。
作曲は『千と千尋の神隠し』で「いつも何度でも」を作曲された木村弓さんです。
「いつも何度でも」と同じく、3/4(四分の三拍子)で進行していきます。

それでは1番のコード進行を見てみましょう。

3/4(四分の三拍子)
*イントロ
|CM7 |      |FM7 |      |
|Em  |Am7 |Em  |Am7 |

|F#m7♭5|F   |B7sus4|B7sus4/A|
|Esus4/G |G7(9,13)|

*Aメロ
|C   |    |Am7 |    |
|Dm7 |    |Gsus4 |G7  |

|C   |    |Em |    |
|Dm7 |G   |C   |    |

*Bメロ
|F   |G7/F |C/E |    |
|Dm7 |G7 |C/E |C7 |

|F   |G7/F |Em7 |Am7 |
|Dm7 |    |Dm7/G |G   |

*サビ
|C   |    |Am7 |    |
|Dm7 |    |Dm7/G |G7 |

|C   |    |Em |    |
|Dm7 |G7 |Fm |(2/4)|

|(4/4)Csus4  C|N.C |

曲のキーはCメジャーになります。
*Cメジャーダイアトニックコード
ⅠM7 CM7 T
Ⅱm7 Dm7 SDⓢ
Ⅲm7 Em7 Tⓢ
ⅣM7 FM7 SD
Ⅴ7 G7 D
Ⅵm7 Am7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Bm7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

イントロ部分の後半4小節では、F#m7♭5コードからガラッと雰囲気を変えて進行していきます。
とくにBsus4コードからは、sus4コード特有の広がりを感じられるよるな響きで進行していき、G7(9,13)コードでの音符の一連の流れで、一旦落ち着いたかのようにも聴こえます。

ですがそのG7コードがドミナントコードとなり、AメロのCコードへと進行していきます。
イントロ部分の後半4小節では|F#m7♭5|F   |B7sus4|B7sus4/A|Esus4/G |G7(9,13)|という進行です。

*コードトーン(コード構成音)

F#m7♭5 ファ# ラ ド ミ
F ファ ラ ド
B7sus4 シ ミ ファ# ラ
B7sus4/A ラ シ ミ ファ# ラ
Esus4/G ソ ミ ラ シ
G7(9,13) ソ シ レ ラ ミ

コードトーンを見ていただければわかる通り、F#m7♭5コードからG7(9,13)までのコード進行では、全てのコードにラの音がペダルポイント(共通のコードトーン)として入ってます。

次に、Cメジャーと平行調のAmダイアトニックコードの発展系、Aメロディックマイナーダイアトニックコードを見てみましょう。

*Aメロディックマイナーダイアトニックコード

ⅠmM7 AmM7 Tm
Ⅱm7 Bm7 SDmⓢ
♭ⅢM7#5 CM7#5 Tmⓢ
Ⅳ7 D7 SD
Ⅴ7 E7 D
Ⅵm7♭5 F#m7♭5 Tmⓢ
Ⅶm7♭5 G#m7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

Aメロディックマイナーダイアトニックコードでは、Amスケール(ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ)の内、ファとソに#がつき、半音上がります。

イントロ部分で出てきた、Cメジャーダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードは、Aメロディックマイナーダイアトニックコードから借用されていると解釈しても良いでしょう。

AメロディックマイナーダイアトニックコードのⅡm7のBm7コードと、ⅤのEコードの長3度(メジャー3rd)の音を、完全4度(パーフェクト4th)の音に変えて、sus4コードとして使用されています。

Bm7 シ レ ファ# ラ
B7sus4 シ  ファ# ラ
E ミ ソ# シ
Esus4 ミ  シ

近年の大胆なsus4コードの使用は、『マクロスF』主題歌でもありますアニソン大ヒット曲「ライオン」において、壮大な宇宙観を表現させるように、マイナーキー基調の楽曲とし、間奏においてsus4コードが多用されています。

Aメロでのコード進行は<C→Am7→Dm7→Gsus4→G>という進行パターンと、
<C→Em→Dm→G→C>という進行パターンの2つがあります。
これはコードの機能から見ると、どちらも<安定→安定→少し不安→不安>(2つ目の進行パターンの最後は安定が加わる)という進行をしており、とてもシンプルで終止形(終わりに向かう)を含んだコード進行です。
*終止形(ドミナントモーション)
|Ⅱm  Ⅴ |Ⅰ      |

:例
|Dm  G |C      |
(解決へのコード進行)

次にBメロにおいてもコード進行は2パターンでてきます。
*1つ目のパターン
|F   |G7/F |C/E |    |
|Dm7 |G7 |C/E |C7 |
*2つ目のパターン
|F   |G7/F |Em7 |Am7 |
|Dm7 |    |Dm7/G |G   |
1つ目のパターンでは、後半4小節において、Dm7コードからG7コードへⅡ-Ⅴ進行し、Cコードで落ち着いてから、C7コードとなり、Fコードへセカンダリードミナント(Fコードを主音と見て、CコードをドミナントコードとするためにC7コードへ変化)進行をしています。
どちらの進行パターンにも共通するのが、初めの2小節の進行が<F→G/F>ということです。
メジャーキーにおけるこの<F→G/F>のコード進行を、J-POP界の名音楽プロデューサー、亀田誠治さんは『小悪魔コード』と呼んでおります。
どこが小悪魔かと言いますと、F→G(G/F)から明るい主和音(曲のキーとなる和音)のCに向かって着地すると見せかけておいて、暗いEmに進行。迫ってきたと思ったら突き離される、答えが出ない情景を作り出すコード進行パターンになります。
2つ目のパターンでは<F→G/F→Em7→Am7>で、小悪魔コード進行となっており、後半4小節ではⅡ-Ⅴ進行の、Dm7コードからGコードへ進行しサビに入っていきます。
*サビ
|C   |    |Am7 |    |
|Dm7 |    |Dm7/G |G7 |

|C   |    |Em |    |
|Dm7 |G7 |Fm |(2/4)|

|(4/4)Csus4  C|N.C |

サビでは変拍子も入っています。
注目してもらいたいのが、Dm7コードからG7コードへ進行し、サビの終わりは主音のCコードがくると予感させときながら、裏切りのFmコードです。
このFmコードは、同主調のCmダイアトニックコードのⅣmコードで、サブドミナントマイナーコードです。
サブドミナントマイナーコードは万能コードであり、J-POPにおいても多用に使用されますが、それをⅡ-Ⅴ進行のあとのサビの終わりに使用されてます。

「崖の上のポニョ」崖の上のポニョ

作詞:近藤勝也 作曲:久石譲

最後に、大橋のぞみさんと藤岡藤巻さんが歌う、「崖の上のポニョ」です。
クラシック音楽通の方は、ロベルト・シューマン作曲の「楽しき農夫」を想起するのではないでしょうか。

それでは1番のコード進行を見てましょう。

*イントロ
|C7  |    |

*イントロサビ
|F   |B♭ F/A|C  Dm|G/B  C|
|F   |B♭ F/A|Gm  F/C|C  F  |

*間奏
|F   |    |    |    |

*Aメロ
|F  C/E|C  F |F B♭|F  Csus4 C|
|F  C/E|C  F |F B♭|C  F |

*Bメロ
|C7 D♭dim|Dm C |B♭m|F    |
|Dm  C |B♭ B♭m|F  C/E|Dm C |

|B♭  |C7  |

*サビ
|F   |B♭ F/A|C  Dm|G/B  C|
|F   |B♭ F/A|Gm  F/C|C  F  |

キーはFメジャーになります。
*Fメジャーダイアトニックコード
ⅠM7 FM7 T
Ⅱm7 Gm7 SDⓢ
Ⅲm7 Am7 Tⓢ
ⅣM7 B♭M7 SD
Ⅴ7 C7 D
Ⅵm7 Dm7 Tⓢ
Ⅶm7♭5 Em7♭5 Dⓢ

*ⓢ・・・代理
*T・・・トニック(安定)
*SD・・・サブドミナント(少し不安定)
*D・・・ドミナント(不安定)

はじまりはドミナントコードのC7コードではじまり、イントロサビに進行していきます。
*イントロサビ
|F   |B♭ F/A|C  Dm|G/B  C|
|F   |B♭ F/A|Gm  F/C|C  F  |

イントロサビでは、ダイアトニックコードにはない、ノンダイアトニックコードのG/Bコードが出てきます。

こちらはCコードへ進行するために、CメジャーダイアトニックコードのⅤ7から借用されたドミナントコードです。
このイントロサビでの進行が、曲を明るく元気に印象付ける進行部分ですね。

続いてBメロでは、ノンダイアトニックコードのC#dimコードと、B♭mコードが出てきます。
*Bメロ
|C7 D♭dim|Dm C |B♭m|F    |
|Dm  C |B♭ B♭m|F  C/E|Dm C |

|B♭  |C7  |

D♭dimコードは、CコードからDmコードへの繋ぎのコードです。

C7 ド ミ ソ シ♭
D♭dim レ♭ ミ ソ シ♭

コードトーンもルート音以外が同じです。
B♭mコードは、Fメジャーと同主調のFmダイアトニックコードのⅣmから借用された万能コード、サブドミナントマイナーコードです。

そして不安感を漂わせたBメロから、また明るく元気なイントロサビへ進行していきます。

久石譲の哲学

久石譲さんは著書「感動をつくれますか?」で自らの思考や哲学を語っておられます。

・誰かに気に入ってもらおうと思って曲をつくったことはない
「聴く人がどう受けとめるかは、聴く人の自由だろう。」

・アイディアは無意識の中でひらめく?
『となりのトトロ』の<さんぽ>のサビのメロディーが思い浮かんだのは、風呂場の湯船の中だった。

・音楽は記憶のスイッチ
街を歩いていて、青春時代によく聴いていた音楽が流れてくると、懐かしさと同時に、そのころつき合ってた人だとか、一緒に遊んだ仲間との思い出などがすっと浮かんでくる。音楽には、記憶をそういうところに瞬時にして戻せてしまう力がある。

・「おまえは世界一だ」
ステージに立つ前、僕は毎回必ず同じ行動をする。

~中略~

本番はいつも緊張するし、プレッシャーも感じる。だが、それは苦痛なことではない。
緊張もプレッシャーもないことなどありえない。

今では思いついたアイディアを記録するのには、スマホ1台あれば済んでしまいます。
もちろんそのアイディアをひらめくためには圧倒的な知識の量が必要でしょう。
皆さんとともに僕自身も意識しながら励んでいきたいと思います。

おわりに

ジブリ映画でどれが1番好きか、なんて話題を友人としたことはないでしょうか。
そんな国民的な話題にも上るジブリの名曲を取り上げ、要所をまとめてみました。

もしかすると皆さんのお気に入りのジブリ音楽は出てこなかったかもしれませんが、ぜひご自身でジブリ音楽の秘密を探ってみてください。