今回はマイナーキーの楽曲において多用される、定番のコード進行をJ-POPヒットソングを交えながらご紹介していきます。
Cメジャースケール(ドレミファソラシド)、またはAマイナースケール(ラシドレミファソラ)で構成された曲中に出てくるAmコードを、”Ⅵm”と解釈するか、”Ⅰm”と解釈するかは決まりはありません。
もちろん全ての楽曲をメジャーキーとして解釈しても問題はありませんが、マイナーコードが軸となったコード進行パターンを理解することで、コード進行の持つ魅力をより感じられるのではないでしょうか。
マイナー・ダイアトニック・コード
Cメジャースケール(ドレミファソラシド)を基調に構成された楽曲において、Cメジャー・ダイアトニック・コードでは、CM7コードはⅠM7となりAm7コードはⅥm7に当てはまります。
一方、Cメジャースケールと平行調であるAマイナースケールを基調に構成された楽曲では、Aマイナー・ダイアトニック・コードにおいてAm7コードはⅠm7となるのです。
*Amダイアトニックコード
Ⅰm7 | Am7 | Tm |
Ⅱm7♭5 | Bm7♭5 | SDmⓢ |
♭ⅢM7 | CM7 | Tmⓢ |
Ⅳm7 | Dm7 | SDm |
Ⅴm7 | Em7 | Dm |
♭ⅥM7 | FM7 | SDmⓢ |
♭Ⅶ7 | G7 | SDmⓢ |
*ⓢ・・・代理
*Tm・・・トニックマイナー(暗く安定)
*SDm・・・サブドミナントマイナー(暗く少し不安定)
*Dm・・・ドミナントマイナー(暗く不安定)
ここではローマ数字で表記されたディグリーネームを使いながら、Amキーにおいてコード進行パターンを解説していきます。
1.マイナー・ダイアトニックのスリー・コード
|Ⅰm |Ⅳm |Ⅴm |Ⅰm |
まずご紹介するのは、ナチュラル・マイナーのスリーコード進行です。
マイナー・キーのⅠm、Ⅳm、Ⅴmにあたり、暗く悲しい楽曲においてはスリーコードが多用されます。
2.Vmをハーモニック・マイナーのVに変える
|Ⅰm |Ⅳm |Ⅴ |Ⅰm |
続いては、先ほどのスリーコード進行でⅤmが使用されていたEmを、ハーモニック・マイナーのⅤであるEに変更した進行です(メジャーキーで解釈した場合はⅢ)。
Emの3度の音であるソがソ#となり、より緊張感を持ってAmへ解決できます。
3.Ⅰmから♭Ⅶを経由して♭Ⅲで明るく落ち着く
|Ⅰm|♭Ⅵ|♭Ⅶ|♭Ⅲ|
続いては、Ⅰmから♭Ⅶを経由して♭Ⅲで明るく落ちくパターンです。数多くのヒットソングで使用されるコード進行でもあり、小室哲哉さんも楽曲に数多く取り入れたことから【小室進行】とも呼ばれます。

4.ⅦdimからⅠmで解決
|♭Ⅵ|♭Ⅶ|Ⅶdim|Ⅰm|
こちらはハーモニック・マイナーのⅦdimを使用してⅠmへアプローチする進行です。
ベース音も上行となり、パッシング・ディミニッシュとしても使用。
ワンオクロックのヒットソング『The Beginning』では、サビから間奏切り替わる箇所でG#dim(E/G#)→Amと使用。
5.ベース音が下降する
|Ⅰm|♭Ⅶ|♭Ⅵ|Ⅴ |
続いてベース音が下降する進行です。ⅠmのAmからドミナントコードのⅤであるEに向かって、ラ→ソ→ファ→ミと下降していきます。
Dm→C→Bm♭5→Amなどのような違うパターンもありますが、Bm♭5、つまりⅡm♭5はG/B(♭Ⅶ/Ⅱ)に置き換えられることも多々あります。
6.メロディック・マイナーを使用したライン・クリシェ
|Ⅰm|ⅠmM7|Ⅰm7|Ⅵm7♭5|
続いてはメロディック・マイナーを使用したライン・クリシェです。最後のF#m7♭5は、Am6と置き換えてもOK。
ここではAmからF#m7♭5へ、コードトーンであるラから、ラ→ソ#→ソ→ファ#と下降。

久保田早紀さんの大ヒット曲『異邦人』においても、Aメロ6小節目からFm→FmM7/E→Fm7/E♭→Fm6/Dとクリシェ進行をしています。
アイドルソングにおいても、乃木坂46・桜井玲香さん卒業ソング『時々思い出してください』のサビでは、7小節目からこのような進行です。
|F#m Faug|A/E B/D#|
こちらはF#m→F#mM7/F→F#m7/E→D#dimとも解釈可能。
このように様々のヒットソングにおいて使用されています。この他にもクリシェ進行パターンはまだまだありますので、ぜひお気に入りのクリシェを見つけてみてください。

7.メロディック・マイナーのⅣを間に入れる
|Ⅰm|♭Ⅲ|Ⅳ |♭Ⅵ|
続いてはメロディック・マイナーのⅣを使用し、メロディアスに感じる進行です。
ここではDコードのコードトーンである、ファ#がメロディックポイント。
Ⅳのコードは他にも、♭Ⅶにセカンダリードミナントするために使用されることもあります。
|Am |D |G |C |
8.メロディック・マイナーのⅡm7を使ってⅡ→Ⅴ
|Ⅰm|♭Ⅵ|Ⅱm7|Ⅴ |
続いてはメロディック・マイナーのⅡm7を使用し、ツーファイブでの進行です。
Bm7♭5のコードトーンであるファが、ファ#となりBm7に変換。
*メジャーキーでのツーファイブ例
|Dm7 |G |C |
9.Ⅱ7からⅤにドミナント・モーション
|♭Ⅵ|Ⅱ7|Ⅴ |Ⅰm |
こちらはハーモニック・マイナーのⅤへ進行する時に、Ⅴをトニック・マイナーと仮定しドミナントコードで進行するパターンです。
Eを仮トニックと見立て、ドミナントコードであるB7を使用。こちらは半音アプローチで進行するため、onコードとなりB/D#や、D#dimコードともなり使用されます。
Eハーモニック・マイナーのⅤ、またはⅦdimを使用。
平成終盤の大ヒット曲でもある米津玄師さん『Lemon』では、Aメロ4小節目においてDdim→D#7と進行。つまりD#7を仮トニックと見立て、D#ハーモニック・マイナーのⅦdim、またはⅤ/ⅦであるA#/Dを使用したと解釈できます。

他にも、石川さゆりさん『津軽海峡・冬景色』では、BメロにおいてDm→Am→F→B7→E7という進行がされおり、ここではE7を仮トニックと見立て、Eハーモニック・マイナーのⅤ7であるB7を使用した例です。
10.5度進行を連続させた、「枯葉進行」
|Ⅳm7♭Ⅶ7|♭ⅢM7♭ⅥM7|Ⅱm7♭5 Ⅴ7|Ⅰm7|
続いては5度進行を連続させたパターンです。このように平行調(ここではCメジャーとAマイナー)を行き来するようなパターンは【枯葉進行】とも呼ばれています。
11.Ⅰ7からⅣmにドミナント・モーション
|Ⅰm|Ⅰ7|Ⅳm|Ⅴ |
続いてはⅠmからⅣmへ進行する時に、ⅠmをⅠ7に変化させドミナント・モーションした進行です。
ここではAmからA7へ進行しDmへつながっていますが、A7の小節をDmへのツーファイブに分割することも可能。
*ツーファイブ例
|Em7♭5 A7 |Dm |
|Em7 A7 |Dm |
12.♭Ⅲ7を使用し♭Ⅵにドミナント・モーション
|Ⅰm|♭Ⅲ7|♭Ⅵ|Ⅴm|
続いては♭Ⅲ7を使用し、♭Ⅵへドミナント・モーションした進行です。
ここではFを仮トニックと見立て、ドミナント・コードであるC7が登場。
多用されるパターンとしまして、こちらもⅡ→Ⅴ(ツーファイブ)進行への分割が使用されます。
|Gm7 C7 |F |
このようにFメジャー・ダイアトニックのⅡm7とⅤ7を借用し、Ⅴm7→♭Ⅲ7→♭Ⅵという進行はJ-POPにおいても数多く使われます。
aikoさんのヒット曲『カブトムシ』においても、Aメロ、サビで使用。*Cm7→B♭m7→E♭7
13.進行にサブドミナント・マイナーを挟む
|Ⅰm|Ⅳm7♭5 ♭Ⅶ7|♭Ⅲ|Ⅴ|
続いては、平行調であるメジャーキーのサブドミナント・マイナーであるⅣm7♭5を使用した進行です。ここではCメジャーと同主調であるCマイナーのⅡm7♭5であるDm7♭5の使用例。
サブドミナント・マイナーはとても万能なコードで、多くのヒット曲に使用されています。
*サブドミナント・マイナー使用例
|Am |Fm7 B♭7|C |E |
14.小悪魔コード進行
|♭Ⅵ|♭Ⅶ/♭Ⅵ|Ⅴm|Ⅰm|
続いては、♭Ⅵ→♭Ⅶという進行をベース音をキープし♭Ⅶ/♭Ⅵ、そして♭Ⅲへ解決すると見せかけⅤmからⅠmという進行です。
こちらは音楽プロデューサーの亀田誠二さんが、期待を裏切る進行とし【小悪魔コード】と名付け呼びました。
この進行もポップスにおいて、数々のヒットソングで使用されています。
平井堅さんの名曲『瞳をとじて』においては、サビでのクライマックスに目がけ、♭Ⅵ→♭Ⅶ/Ⅵ→Ⅴ7→Ⅰm7と変化。
*小悪魔コードからⅤ7へ進行するパターン例
|F |G/F |E7 |Am7 |
15.ユーロビート進行
|♭Ⅵ|♭Ⅶ|Ⅰm| |
最後は【ユーロビート進行】といわれるパターンです。♭Ⅵ→♭Ⅶ→Ⅰmと進行(メジャーキーで解釈するとⅣ→Ⅴ→Ⅵm)。
ここではF→G→Amと進行、拍数の対比は1:1:2となります。
*進行パターン例
|F G |Am |
|Am |F G |

また哀愁系コード進行とも相性がいいことから、哀愁ユーロと呼ばれる進行もあります。
*哀愁ユーロ進行
|F |G |Em |Am |
また哀愁系コード進行において、Ⅰmへより劇的に進行するため、ⅤmをⅤ7に置き換えられた進行も多用されます。
*哀愁ユーロのⅤmをⅤ7へ
|F |G |E7 |Am |
ユーロビート進行及び、哀愁ユーロ進行は数々のヒット曲で使用されています(荻野目洋子『ダンシングヒーロー』、DA PUMP『U.S.A』、安室奈美恵『TRY ME』など)。

おわりに
今回はマイナー系の定番コード進行を解説しました。
マイナーキーで解釈しにくいという方は、まずはメジャーキーでアナライズ(分析)してみてください。