近年ますますネガティブな曲が増加していく傾向の中、ネガティブソングが与える効果、そして我々のネガティブな感情をどう対処していくかについて、皆さんと考察していきたいと思います。
ネガティブな現代
厚生労働省の実施している患者調査によれば、日本の気分障害患者数は1996年には43,3万人、1999年には44,1万人とほぼ横ばいでありましたが、2002年には71,1万人、2005年には92,4万人、2008年には104,1万人と、年々著しく増加しています。
ただ注意しなければいけないのが、「うつ病が増加した」と強調されることがありますが、うつ病は検査などで明確に診断できる疾患ではないので、診断基準が少し変わることによって、診断される患者数にかなりの差が出てきます。
ビルボードのネガティブランキング
とても興味深い研究がUNIVERSITY of CALIFONIA PRESSにて発表されました。
1951~2016年のあいだにビルボード(米国音楽チャート)トップ100に入った曲から、そこに出てくる歌詞を分析しました。
歌には明るい曲、暗い曲、または楽しい曲、悲しい曲、それぞれある中、それは時代によってヒットソングの偏りがあるのではないか、ということを調べました。
研究では約6,500曲の中から、感情にまつわるキーワードを分析したところ、なんと、現代に近づけば近づくほど、怒りや悲しみなどのネガティブな感情を表す歌詞が増えていたのです。
ストレス社会と言われる現代で、共感を呼ぶネガティブな歌が好まれてきたのかもしれません。
なぜイヤな記憶が甦るの
もともと人間というのはネガティブな感情を伴う出来事をよく記憶します。
なぜイヤな出来事をよく記憶すると言いますと、次にまた同じような出来事が起こりそうな時に、それを避けなければならないからです。
「音の心理学」でも解説しましたが、人間の古来からある古い脳の部分である、大脳辺縁系に短期記憶を司る海馬という部位があり、そこに貯めこんである記憶を出し入れする時に、増幅させたり弱めたりする偏桃体という部位があります。
どちらも人間が種を保存させていくために重要な機能を持ち合わせた脳の部位です。
つまりイヤな出来事やネガティブな出来事なほど、生命の危機を回避するために、本能的に強く記憶してしまうということです。
学生時代の頃に、テストの勉強をしていて間違えた問題こそ、本番のテストで正解をとれたという人もいるかと思います。
音楽療法から見る【同質の原理】
イヤな気持ち、ネガティブな気持ちを和らげる、または取り除くには、様々な方向性からのアプローチがあるかと思いますが、音楽療法では【同質の原理】という言葉があります。
これは心理学者のアルト・シューラーが提唱した言葉で、気持ちが落ち込んでいる人に無理に明るい曲や、アップテンポの曲を聴かせるよりも、落ち込んでいる人に合わせた暗い曲、または悲し気な、穏やかな曲を聴かせたほうが効果的だというものです。
例えば、失恋した時に「元気だせよ!パーッといこうぜ!」などと言われて、無理に気持ちを盛り上げようとしてもなかなか上手くいくもではありません。
そんな時は一度自分の気持ちと向き合って、まるで自分の気持ちを代弁しているかのような音楽を聴き、共感を感じながら気持ちを落ち着かせましょう。
ネガティブな感情を娯楽にする
私たちが生きていく中で、なかなか思うようにはいかないこともあります。
それが自分の努力しだいでコントロール可能な事象でありましたら、諦めず頑張りましょう。
ですがそれが自分のコントロールではどうにもできないような事なら、思い切り悲しんだり、悔しがったり、落ち込んだりしてもいいのではないでしょうか。
無理に強がったり、自分を偽るのではなく、AIやロボットと違い、涙を流すから事にも人間としての価値があるように思えます。